冬の紅花染め、お水取りに和紙の椿

昨年の暮れから、例年になく厳しい寒さが続いている。京都は盆地なので、底冷えがして、からだの動きも少し鈍くなっているような気がしてならない。

私の染工房では、このところ毎朝、工房の前庭にしつらえた竈に稲藁を入れて燃やし、灰をつくる作業が続いている。寒いなか、竈の火をのぞいてしばし暖をとるのは、作業の間の楽しみのひとつである。

植物染の仕事をするうえで、その材料となる植物の草根樹皮を選定することは、極めて重要な要素であるが、それらの材料をつかってうまく美しい彩りに染めるためには、助剤となるも重要な役割をはたしている。

私どもは、植物染に用いる灰を、三種類を使い分けている。

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三種の灰 貴重な稲藁

「源氏物語の色」展覧会

「源氏物語の色」展覧会

私どもの工房では、冬に紅花を染めるのに使う藁灰を、毎年秋の終わりになると準備する。

しかし今年は一足早く、9月の下旬から稲藁を燃やしている。というのは、11月に東京日本橋高島屋で「源氏物語の色」と題した展覧会を催してもらうので、王朝の女人たちが愛した紅花の赤をこれから染めるためである。

稲藁は、今日では貴重品である。それは、コンバインで稲を刈るようになり、穂をとったあと、藁は小さく刻まれて畑にまかれて残らないからである。

昔のように、刈りとった稲を束にして、棚にかけて天日干しをする農家が少なくなった。

そうした昔ながらの、しかも無農薬有機栽培をしておられるところから、特別に稲藁を分けていただいている。

美しい色をあらわす植物の材料の調達も大切なことであるが、藁灰、そして紫を染めるための椿灰、さらには藍染の甕に入れる櫟 (くぬぎ) などの堅木の灰と、私どもの工房では三種の灰の調達にも神経を配っているのである。

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蓼藍の一番葉の刈りとり

立秋もすぎて、日ごとに秋の気配が感じられるようになりました。

今年は、5月、6月の気温がわりあい低く雨も少なかったので、藍の生長がかなり遅れていました。というのは、小雨なのは蓼藍の栽培にはよくないのです。周知のように、藍は「水藍」とも呼ばれるように、川の三角州や水田のような充分に湿り気のあるところによく育つ性質をもっているからです。

私どもの工房の近くでも田圃に植えてもらっているので、水を早い時期から引いていただいて、ことなきを得ました。

毎年なら、7月20日ころから刈りとるのですが、今年は10日ほど遅く、8月末になった現在、ようやく一番葉の刈りとりが終わるという状況です。

刈りとった葉は、生葉染めに使います。それから大きな水槽に入れて、藍の色素を抽出して剥いで沈殿させて保存しておくのです。

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蓮の葉で和紙を染める

兵庫県神崎郡福崎町の「妙法山蓮華寺」という御寺は、昨年 (平成十四年) 四月に新本堂建立百年および同寺収蔵の日像菩薩染筆とされる「曼荼羅御本尊」が伝えられてから四百年という記念すべき年を迎えられ、さらに八年に一度営まれる像師大法要がかさなった。それを機に本堂内にかかげる幡や袈裟などの制作を私どもの工房に依頼された。

そのおりに蓮華寺さんから、寺名の一字「蓮」の文様をテーマとして意匠 (デザイン) していただきたいとのご要望があり、私どもは鎌倉時代に織られた蓮文様の錦などを参考に、植物染で糸を染めて華やかな織物を制作させていただいた。

昨年四月に行なわれた像師対大法要のあと、御住職から幡の制作工程や当日の法要の様子などを組み入れた記念の本を制作したいとの旨があり、現在もそれに取り組んでいる。

その流れのなかで榮井さんからひとつの提案があった。本の中表紙や扉に、蓮で染めた和紙を使うことはできないかということである。

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冬の工房 − 紅花と藁灰

新しい年をむかえた。昨年の12月はまだ暖かであったが、暮れから正月にかけては京都の街にもときおり雪の舞う日もあって、厳しい寒さがまだ続いている。

工房の前庭には、福田さんが運んできてくれる稲藁が高く積まれていて、例年どおりの冬の景をなしている。

そこに竈(かまど)があって、毎朝八時半をすぎるころに、火を入れて藁を燃やすのである。私どももそのそばに寄り、手をかざして暖をとったりして、10分ほどのくつろいだ時間となる。

その横には地下100メートルから汲みあげられている井戸水が伝わっていて、寒い朝は湯気がたっている。井戸水は冬でも14〜15度あるからである。

この藁灰は、紅花を染めるためのもので、毎日毎日2月の終わりまで燃やしつづけるのである。

近ごろの稲田では、コンバインによって稲刈りがおこなわれており、穂から米を収穫したあとは、藁は刻まれてそのまま田圃に蒔くようになっている。したがって稲藁を集めるのに苦労するわけであるが、私どもは伏見区向島の山田ファームさんに頼んでいる。

山田さんは有機無農薬にこだわって作物をつくりつづけている。稲も旧式に刈り取って、天日干しをしてから籾を採るので、昔ながらに藁がのこるのわけである。

燃やしたあとの灰は、大きなタンクにつめて、その上から熱湯を注いでおく。1、2日そのままにしておくと、その液には藁灰の成分が十分に溶けていく。それをタンクの下の穴から汲みだして貯めるのである。液は弱いアルカリ性になっていて、それで黄水洗いした紅花の花びらを揉むと、赤い液が溶出してくるのである。

紅花の染色に、藁灰は欠かすことのできないものなのである。

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