萩色(はぎいろ)

梨木神社の萩

梨木神社の萩

9月の声を聞くと、暑さもようやく和らいで、朝夕の風は涼やかになり、虫の声が澄んだ音色で響いて、あたりが静けさを取り戻すように感じる。

小さな3枚の丸い葉が並んでいる、その先のほうに、わずかに青味がかった紅から赤味の紫、そして白へと、暈繝をなすように可憐な花が咲いている。萩の花は、秋が来ていることを告げるように色づくのである。

『万葉集』には次のような歌が詠まれている。

「わがころも摺れるにはあらず高松の 野辺行きしかば萩の摺れるぞ」

私の着ている衣は、私が染めたのではありません。高松の野辺の萩が摺り染めにしたのです。という意味である。萩の花の可憐な彩りに見とれていたので、その花が染まるように思えたのであろう。万葉の人々のおおらかな心が読み取れるような歌である。

しかしながら、花の色素は弱く、そう長く美しい彩りはのこらないだろう。

清少納言が著した『枕草子』には、「女房の装束、裳・唐衣をりにあひ、……朽葉の唐衣・淡色の裳に、紫苑・萩などをかしうてゐ並みたりつるかな」と、宮廷に仕える女房たちが、「をりにあひ」つまり時期にあった、ここでは早秋の、葉の朽ちた黄色、紫苑、萩などの衣裳を着ていることを賛しているくだりがある。

萩の花にふさわしいのは、蘇芳の芯材で染めた色で、その下にはやや緑がかった青で葉をあらわしている。早秋の襲である。

京都では、京都御苑の東にある梨木神社の萩がよく知られていて、まだ明けやらぬ頃に訪れると、露に濡れた美しい萩の花色を鑑賞できる。

日本の色辞典萩色萩の襲の色標本と詳しい解説は
日本の色辞典』をご覧ください。
吉岡幸雄・著 (紫紅社刊)

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東大寺記念行事 五色の開眼縷 (かいげんのる) 制作進む

これを書いているのが8月26日。工房では蓼藍の二番葉が生育してきていて、その刈り取りに忙しい。渋柿もちょうどいい大きさで、青味がまだ残っていて「新渋」をとるのにいい季節である。

8月28日は、高名な写真家、高橋昇さん(この方は前に和光の『銀座チャイム』誌でお仕事をした人である。)が、渋を絞るのや、紫根染などを撮影にこられる。雑誌『潮』の巻頭カラー頁だそうである。

東大寺の10月15日の記念行事(このホームページの「吉岡会」参照)にむけての仕事が追い込みにはいっている。とくに五色の縷の紐の仕事が大がかりになってきた。

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青白橡 (あおしろつるばみ)・麹塵 (きくじん)

青い団栗(どんぐり)

青い団栗(どんぐり)

日本列島の四季の移ろいは、日毎にゆっくりゆっくりとすすんでいく。落葉樹も夏の暑い盛りには深い緑色をたたえているが、秋が近くなって、涼やかな風が吹いてくると、青い葉がわずかに黄ばんでくる。

私たちが団栗と呼んで親しんでいる木の実も葉の間にいくつもの実を付ける。団栗というのは、ツルバミ、ナラ、クヌギ、カシなどの実を総称して、そう呼んでいるのである。

青白橡 (あおしろつるばみ) という古い色名があって、夏の終わりの団栗の実の青さの残る色をそう称している。また、それを麹塵 (きくじん) ともいう。

麹塵とは、麹黴 (こうじかび) の色である。平安時代、天皇だけが着用できた禁色 (きんじき) で、室内のほのかな明るさでは薄茶色に見えるが、太陽の光のなかに立つと、緑が浮くように映える。

『延喜式』には、「青白橡綾一疋。苅安草大九十六斤。紫草六斤。灰三石。薪八百四十斤」と、その染色法が記されている。

普通、緑系の色を出すには藍と黄色を掛け合わせて染めるのだが、これはその例外で刈安と紫草の根を掛け合わせるのである。

どのような色であるか、私の工房で『延喜式』にのっとって染めてみた。さいわい、刈安は近江の琵琶湖の東、伊吹山で採れたものがある。紫根は京都福知山で丹精こめて栽培しておられるものを譲っていただいたものもあった。

色は不思議な緑系に染めあがった。

日本の色辞典麹塵青白橡山鳩色の色標本と詳しい解説は
日本の色辞典』をご覧ください。
吉岡幸雄・著 (紫紅社刊)

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法隆寺伝来国宝「四騎獅子狩文錦」の復元進む

昨年から、法隆寺と NHK より、法隆寺に伝来する聖徳太子ゆかりの国宝「獅子狩文錦」の復元に取り組んでほしいとの要望があり、様々な方々のご協力を得て、私ども吉岡工房で努力してきた。

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東大寺管長の紫衣を織る

日本においても紫は飛鳥時代より高貴な色として崇められてきたのである。東大寺正倉院に今日も遺る染織品にも紫草の根、つまり紫根で染められたと考えられるものをいくつか見ることができる。

とくに聖武天皇が御遺愛のものであったという「紫地鳳文軾」がよく知られており、今日もその美しい彩りをたたえている。紫色が高貴な色であるゆえに、奈良時代の大寺院の僧衣も紫の衣を着ていたのである。

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