実りの秋(刈安、蓮の葉、団栗、ざくろ、紅花)

ザクロの実

ザクロの実

もうすぐ十一月。工房には秋に実った、染料になる植物が次々と届けられています。

近江伊吹山からは、刈安。黄色の染料になります。

近くの小椋池 (おぐらいけ) 干拓地からは、かつて広く生育していた蓮の葉。今日でもその一部が大切に保存されています。

宇治の山からは団栗のいがも。

工房の庭には「ざくろ」の実が熟しています。これもやや渋味の黄色になります。

それから、山形、伊賀上野からは紅花です。

まさしく実りの秋というところです。

自然の色を染める: 家庭でできる植物染自然の色を染める: 家庭でできる植物染
監修: 吉岡幸雄、福田伝士
紫紅社刊

家庭でできる草木染め。工程写真1200点とともに、日本の伝統色の染め方をわかりやすく解説。

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黒灰造りと繭の糸引き

今年は寒さがいちだんと厳しいようで、京都でも南の少しは温かな地にある工房でも雪が散らついたり、凍てる朝もあります。

そうしたなか、紅花染の季がやってきて、毎朝、稲藁を竈で燃やして黒灰を造っています。これは紅花染には欠かせないもので、これを大きな桶につめて、そこに温湯を注いで2〜3日放置しておきます。そうすると灰の成分がとけて、天然の弱いアルカリ性の液が出来ます。それを漉して、あらかじめ黄色を流しさった (黄水洗) 紅花の花びらをこれで揉み込みますと赤い色素が流出してくるのです。

それと、今、工房の一角では繭の糸引きもしています。四国、愛媛県野村町から運ばれてきた、小さな特殊繭から糸引きをしています。

古い時代の錦を復元するための糸です。こうした仕事には丁寧さと時間、根気が必要であります。

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胡桃 (くるみ)・魏志倭人伝・纏向遺跡

胡桃 (くるみ)

胡桃 (くるみ)

今年の夏の、とくに8月の酷暑、9月の残暑は格別であったが、ようやく10月も半ばをすぎて、秋らしい日が続くようになってきた。

それでも自然は確実に季節を刻んでいるようで、父の代から染料になる植物が植えられている私の染色工房の庭では、クルミの実が熟している。

客人を迎える南に面した部屋の前のテラスのトタン屋根に、クルミの実が落ちてきて大きな音をたてると、客人はその音に驚いて、「なんの音ですか」と訊ねる。「クルミの実が落ちた音ですよ」と私は笑う。1、2時間滞在する客人にはその音が幾度も聞こえて気になる様子なので、しまいに私が外に出てその実を拾ってきてお見せすることになる。

店などで売られているクルミは、薄茶色の硬い鬼皮で包まれているが、枝についているときは、青い偽果に包まれている。

落ちた実を掌にのせると、産毛が生えた皮から粘り気のある液がにじみ出てくる。その液は、植物が含んでいるタンニン酸が実を保護するために集まってきているためで、瞬く間に茶色の液が掌につくのである。

クルミは、茶や黒の格好の染料になる。クルミの実を拾い集め、さらに木の細い枝を切って深いステンレスの鍋に入れて水を注いで煮沸する。30分ほどすると、液は茶色くなって、いかにも色素が抽出できたように見える。その液を一度取り出し、また新たに水を加えて二番目の液をとる。

クルミに限らずすべての草樹にはタンニン酸が含まれていて、植物の防菌作用を促しているのだが、団栗、矢車 (やしゃ)、椎の実など、タンニン酸を多く含む実は、古代よりすぐれた染料として扱われてきた。

いまから5500年〜4000年前の縄文時代の集落跡としては日本最大級といわれる青森市三内丸山 (さんないまるやま) 遺跡がある。この遺跡からオニグルミの実と、その実を入れて運んだと考えられる網籠(縄文ポシェット)が出土している。網籠は縦が13センチほどで、木の皮を細く裂いて編んでいる。網籠に彩色がほどこされたとは思えないが、黒に近いほどの焦茶色になっているのが印象的であった。

おそらくクルミの実を拾った私の手に茶色の液がついたように、採集した実を入れている間にその液が籠について自然と染まっていったのではないだろうか。

クルミの実には脂肪分が多く含まれていて、縄文時代の人々の重要な食用植物であったのである。

しかし、縄文の人々がクルミや団栗を使って染色をしていたかというと、私はその可能性は薄いように思う。

なぜなら当時、絹は日本に渡来してなかったし、麻や楮 (こうぞ) の樹皮から細い糸を紡いで機 (はた) にかけて一枚の布を織りあげるということも、まだおこなわれていなかったからである。

日本人が機を考案し織物をするようになったのは縄文時代の終わりから弥生時代の初めにかけてというのが通説である。

だが、弥生時代の中ごろをすぎたころには麻を植え、桑木を育てて蚕を飼い、絹を生産しはじめていたことが、『魏志倭人伝』の邪馬台国の記述でも裏づけられている。

ところで、この夏の暑さで仕事も少し停滞気味であった9月下旬に、私たち染屋を刺激するようなニュースが飛びこんできた。

それは奈良県桜井市三輪山の北西の麓にある纏向 (まきむく) 遺跡の三世紀前半の溝跡にたまった土から、大量の紅花の花粉が発見されたのである。これまでは紅花の渡来は5〜6世紀とされていた。今回纏向遺跡より、自然ではありえないほどの量が発見されたことにより、紅花を染める工房がここにあったと考えられるわけで、これまでの定説を2、300年も遡ることになる。

かねてより纏向遺跡辺りは、邪馬台国の有力候補地とされていたため、マスコミの報道は、女王卑弥呼が紅花で化粧をし、紅花で染めた衣裳を着ていたのでは、というものであった。

私は『魏志倭人伝』の記述と若干矛盾するところもあるので、もう少し熟考しなければならないと考えている。だが、紅花の栽培と染色技術の源流は古代エジプトで、それがシルクロードを東漸して中国、日本へと伝わった。植物染を専らとするものとして、その報道は古の色の道を考えるうえでは刺激的で、夏の暑さをのこしただるい身体に針を打たれたような気持ちになったのである

よしおか工房に学ぶ はじめての植物染めよしおか工房に学ぶ はじめての植物染め
吉岡幸雄・染司よしおか 監修 (紫紅社刊)
生くるみを使った型摺りが紹介されています。

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冬の紅花染め、お水取りに和紙の椿

昨年の暮れから、例年になく厳しい寒さが続いている。京都は盆地なので、底冷えがして、からだの動きも少し鈍くなっているような気がしてならない。

私の染工房では、このところ毎朝、工房の前庭にしつらえた竈に稲藁を入れて燃やし、灰をつくる作業が続いている。寒いなか、竈の火をのぞいてしばし暖をとるのは、作業の間の楽しみのひとつである。

植物染の仕事をするうえで、その材料となる植物の草根樹皮を選定することは、極めて重要な要素であるが、それらの材料をつかってうまく美しい彩りに染めるためには、助剤となるも重要な役割をはたしている。

私どもは、植物染に用いる灰を、三種類を使い分けている。

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三種の灰 貴重な稲藁

「源氏物語の色」展覧会

「源氏物語の色」展覧会

私どもの工房では、冬に紅花を染めるのに使う藁灰を、毎年秋の終わりになると準備する。

しかし今年は一足早く、9月の下旬から稲藁を燃やしている。というのは、11月に東京日本橋高島屋で「源氏物語の色」と題した展覧会を催してもらうので、王朝の女人たちが愛した紅花の赤をこれから染めるためである。

稲藁は、今日では貴重品である。それは、コンバインで稲を刈るようになり、穂をとったあと、藁は小さく刻まれて畑にまかれて残らないからである。

昔のように、刈りとった稲を束にして、棚にかけて天日干しをする農家が少なくなった。

そうした昔ながらの、しかも無農薬有機栽培をしておられるところから、特別に稲藁を分けていただいている。

美しい色をあらわす植物の材料の調達も大切なことであるが、藁灰、そして紫を染めるための椿灰、さらには藍染の甕に入れる櫟 (くぬぎ) などの堅木の灰と、私どもの工房では三種の灰の調達にも神経を配っているのである。

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