夕顔の色


夕顔の花

夕顔の花

奈良の知人の邸へ、夕顔の花が咲くのを見にいったことがある。まだ立秋まではひと月ほどある七月の上旬のことだった。陽が傾いて夕顔の花が咲くのを待っていた。

暑さのなかで、しおれていた花が、少し涼やかな風が吹くようになると、緑の葉を背景にして、五つに裂けた花びらが開いていく。その縁回りは絹の縮緬の生地のように見えた。中央には黄色の花芯を小さく結んで、印象的だった。

花の命は短くて、やがて干瓢に似た実を結んでいく。

夕顔で誰もが想うのは、源氏物語の一章である。光源氏が恩人である大弐乳母(だいにのめのと)を見舞った折りに、その家の隣に夕顔の花が咲いているのを見つける。

一輪の花をもらってくるように随身を遣わしたところ、童が出てきて扇の上にその夕顔の花を置いてわたす。

見舞いを終えたあと、光源氏がその扇を見ると歌がかかれてあった。

これを機に、光源氏と夕顔との逢瀬がはじまるのである。だが、紫式部が「花の名は人めきて……」と記しているように、その美しい人は夕顔の花のように命は短く、亡くなってしまう。

夕顔の花に見立てた襲は、古い文献には見られないのだが、花を白い生絹(すずし)に、その上に花芯の黄色を、刈安で染めたものを置いてみた。夏から秋に穂をのばす伊吹山の刈安に想いをはせた、私流の襲の色である。

吉岡幸雄著『源氏物語の色辞典』「夕顔」より

吉岡幸雄著『源氏物語の色辞典』「夕顔」より



源氏物語の色辞典夕顔の襲と扇・砧・紙燭について詳しくは
源氏物語の色辞典』をご覧ください。
吉岡幸雄・著 (紫紅社刊)


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