支子色(くちなしいろ)


支子の実

支子の実

夏のはじめに白い花をつけてあたりに芳香を放っていた支子は、秋の終わりから冬のはじめにかけて、黄赤色の酒徳利のような形をした小さな実をつける。

中国ではこの実を古くから染料や薬用に用いていた記録があり、日本でも飛鳥から奈良時代にかけて、糸や布を染め、また食物の着色剤として利用していたようである。

私の工房にも、近くの薬草園や、支子の木がたくさんある寺院から実を送っていただく。天日でよく乾かすと、いつまでも黄赤色がのこっており、水に入れてぐつぐつと煎じて染料とする。

椿の造り花

椿の造り花

二月から三月にかけて行なわれる、南都に春を告げる行事として知られる東大寺のお水取りには、二月堂に鎮座する十一面観音に、和紙でつくった椿の花を捧げる習わしがあって、その染め和紙を私の工房から納めている。花びらは紅花染、においと呼ぶ花の芯はこの支子で染めている。

真紅と白の「一枚かわり」という、花びらの色が紅白交互になっている椿の造り花であるが、そのなかに支子で染めた黄色が鮮やかにのぞいている。

支子は布や和紙を染めることが多く、わずかに赤味がかった濃い黄色になっていく。平安時代の人々は、支子色といえば支子の黄色に紅花をかけて赤くして、実の熟した色をあらわしたようで、支子だけで染めた黄色は、とくに「黄支子」と称していた。


カテゴリー: 季の色
タグ: , ,
この投稿のURL