萩色(はぎいろ)


梨木神社の萩

梨木神社の萩

9月の声を聞くと、暑さもようやく和らいで、朝夕の風は涼やかになり、虫の声が澄んだ音色で響いて、あたりが静けさを取り戻すように感じる。

小さな3枚の丸い葉が並んでいる、その先のほうに、わずかに青味がかった紅から赤味の紫、そして白へと、暈繝をなすように可憐な花が咲いている。萩の花は、秋が来ていることを告げるように色づくのである。

『万葉集』には次のような歌が詠まれている。

「わがころも摺れるにはあらず高松の 野辺行きしかば萩の摺れるぞ」

私の着ている衣は、私が染めたのではありません。高松の野辺の萩が摺り染めにしたのです。という意味である。萩の花の可憐な彩りに見とれていたので、その花が染まるように思えたのであろう。万葉の人々のおおらかな心が読み取れるような歌である。

しかしながら、花の色素は弱く、そう長く美しい彩りはのこらないだろう。

清少納言が著した『枕草子』には、「女房の装束、裳・唐衣をりにあひ、……朽葉の唐衣・淡色の裳に、紫苑・萩などをかしうてゐ並みたりつるかな」と、宮廷に仕える女房たちが、「をりにあひ」つまり時期にあった、ここでは早秋の、葉の朽ちた黄色、紫苑、萩などの衣裳を着ていることを賛しているくだりがある。

萩の花にふさわしいのは、蘇芳の芯材で染めた色で、その下にはやや緑がかった青で葉をあらわしている。早秋の襲である。

京都では、京都御苑の東にある梨木神社の萩がよく知られていて、まだ明けやらぬ頃に訪れると、露に濡れた美しい萩の花色を鑑賞できる。

日本の色辞典萩色萩の襲の色標本と詳しい解説は
日本の色辞典』をご覧ください。
吉岡幸雄・著 (紫紅社刊)


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