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野分
野分の次の朝、源氏の名代で秋好中宮御殿に赴いた夕霧(源氏の息子)の眼に映った光景。童女が庭におりて籠の中の虫に露を与えている。



















源氏物語 季の彩り 「野分」より

台風、あるいは颱風という語は明治になってからの言葉で、英語のタイフーン(typhoon)を音訳したものであろう。それまで平安時代からは「野分(のわき)と記されてきた。まさに野の草木を分けるように強く吹く風のことである。

『源氏物語』のその名の帖は、かなり佳境に入っていて、光源氏は自らの理想郷ともいえる六条院を造営して優雅な日々を送っている。

秋のとある夜、激しい野分が都大路をとおりぬけたその翌朝、源氏は六条院を住まう人々を気遣って息子の夕霧を名代として見回りに行かせる。

秋好中宮、すなわち六条御息所の娘は、伊勢の斎宮をつとめたあと冷泉院の中宮になっている人である。その庭では、若い女房たちが激しい風で荒れた庭におりて、籠のなかの虫に露を与えたり、手入れをしたりしている。

朝が早いので、みなくつろいでおり、その姿がそのまま夕霧の眼に映るのである。


「紫苑、撫子、濃き薄き袙(あこめ)どもに、女郎花の汗衫(かざみ)などやうの、時にあひたるさまにて」と、秋の季節にふさわしい七草のような麗しい襲の衣裳を着ていることに感心している様子が描写されている。

「時にあひたる」、季節にあった美しい衣裳を着用すること、これが王朝人の美意識である。かつまた今日も日本人のものであるはずである。