玉 鬘

 この帖は、かっての恋人夕顔の忘れ形見である玉鬘が、大宰府より都に戻って光源氏と出会う場面が重きをなしているが、ここでは、年の暮れに光源氏が周りの女人たちに「衣配り」をする場面に注目した。

 紅梅のいと紋(もん)浮きたる葡萄染(えびぞめ)の御小袿(こうちき)、今様色(いまやういろ)のいとすぐれたるとは、かの御料(ごれう)、桜の細長(ほそなが)に、つややかなる掻練(かいねり)取り添へては、姫君の御料なり。浅縹(あさはなだ)の海賦(かいふ)の織物、織りざまなまめきたれど、にほひやかならぬに、いと濃き掻練具して、夏の御方に、曇りなく赤きに、山吹の花の細長は、かの西の対にたてまつれたまふを、上は見ぬやうにておぼしあはす。内の大臣(おとど)の、はなやかに、あなきよげとは見えながら、なまめかしう見えたるかたのまじらぬに似たるなめりと、げにおしはからるるを、色には出だしたまはねど、殿身やりたまへるに、ただならず。「いで、この容貌(かたち)のよそへは、人腹立ちぬべきことなり。よしとても、ものの色は限りあり、人の容貌は、おくれたるも、またなほそこひあるものを」とて、かの末摘花(すゑつむはな)の御料に、柳の織物の、よしある唐草を乱れ織れるも、いとなまめきたれば、人知れずほほゑまれたまふ。梅の折枝、蝶、鳥、飛びちがひ、唐めいたる白き小袿に、濃きがつややかなる重ねて、明石の御方に、思ひやり気高きを、上はめざましと見たまふ。空蝉(うつせみ)の尼君に、青鈍(あをにび)の織物、いと心ばせあるを身つけたまうて、御料にある梔子(くちなし)の御衣、聴(ゆる)し色なる添へたまひて、同じ日着たまふべき御消息(せうそこ)聞こえめぐらしたまふ。げに似ついたるども見むの御心なりけり。

 紫の上には、紫草の根で染めた紅梅文様と、今様色、すなわち紅花をたっぷりと使った濃い紅染を贈る。 明石の姫君にも、可愛く染めた紅花染の布を、明石の御方へは、濃きとあるが、これは紫の色が略してあるので「濃き紫」と解する。それに小さな文様が浮いた白き衣。花散里には、蓼藍(たであい)の生葉(なまは)で染めた海賦(かいふ)の織物など、尼君になった空蝉には、青鈍(あおにび)の織物や支子(くちなし)の実で染めた赤味の黄色と聴(ゆる)し色、すなわち余り紅を使わない。渋紅色など、末摘花には柳色の織物などを贈る。


撮影/森 寛一